膝を曲げ伸ばしすると内側が痛む。立ち上がるときに引っかかる感じがする。歩いたり、走ったりしたあとに膝が腫れぼったくなる。
こうした膝の症状では、半月板や軟骨、靱帯などの問題が考えられますが、「滑膜ひだ(タナ)」と呼ばれる関節内の組織が関係している場合もあります。
滑膜ひだは、もともと多くの人の膝に存在する構造です。存在すること自体が異常なのではなく、ひだの厚さや硬さ、周囲との摩擦、症状との関連などを総合的に考える必要があります。
今回は、タナ障害の基本的な知識から、超音波エコーを用いた評価方法、膝の痛みを考える際に見落としたくないポイントまで解説します。
1.タナ障害とは?膝の関節内にある滑膜ひだ
膝関節の内側には、滑膜と呼ばれる組織があります。滑膜は関節の内側を覆い、関節液の産生などに関わっています。
この滑膜にひだ状の構造がみられることがあり、一般に「タナ」と呼ばれています。膝関節が発生する過程で形成される組織の名残と考えられています。
1997年に報告された400膝の関節鏡研究では、内側の滑膜ひだが72%の膝で確認されました(Kim 1997)。
つまり、タナは珍しい異常構造ではありません。タナが存在することと、タナが痛みの原因になっていることは別の問題です。
では、どのような場合にタナが膝の痛みに関係するのでしょうか。
2.膝の内側が痛い、曲げると引っかかる。その原因は?
滑膜ひだは、膝の曲げ伸ばしに伴って周囲の組織と位置関係が変化します。
運動による負荷や外傷などがきっかけとなり、ひだに炎症が生じたり、厚く硬くなったりすると、膝の動きに伴う刺激が症状に関係する場合があります。
タナ障害でみられることがある症状には、次のようなものがあります。
- 膝のお皿の内側に鈍い痛みがある
- 曲げ伸ばしの際に、コリッとした感覚や引っかかりを感じる
- 階段の上り下りや、しゃがむ動作で痛む
- 走ったり、繰り返し膝を曲げ伸ばししたりすると症状が強くなる
- 長時間座ったあとに膝の違和感が出る
- 膝の腫れやこわばりを感じる
ただし、これらはタナ障害だけに特有の症状ではありません。
半月板損傷、膝蓋大腿関節の問題、軟骨の損傷、成長期にみられる離断性骨軟骨炎などでも、似た症状が現れることがあります。
また、膝から音が鳴るだけで痛みや腫れがない場合には、必ずしも治療が必要な病気とは限りません。
大切なのは、音や痛みの場所だけで判断せず、症状の経過や身体所見を確認することです。
3.滑膜ひだは膝のどこにある?
滑膜ひだは、存在する位置によっていくつかの種類に分けられます。
Kimらが1997年に報告した400膝の関節鏡研究では、次のような割合でひだが確認されています。
| 滑膜ひだの種類 | 主な位置 | 確認された割合 |
|---|---|---|
| 膝蓋上ひだ | 膝のお皿の上側 | 87.0% |
| 内側ひだ | 膝のお皿の内側 | 72.0% |
| 膝蓋下ひだ | 膝のお皿の下側 | 86.0% |
| 外側ひだ | 膝のお皿の外側 | 1.3% |
※上記は特定の研究対象における報告値であり、すべての人にそのまま当てはまる割合ではありません。
今回、特に注目するのは内側ひだです。
内側ひだは、膝関節の内側から前方に向かって走り、膝蓋下脂肪体周辺の組織とつながる構造です。膝の曲げ伸ばしに伴い、大腿骨の内側顆や膝蓋骨周辺との位置関係が変化します。
ひだが存在していても、通常はそれだけで痛みが起こるとは限りません。一方、肥厚や硬化などが生じた場合には、周囲の組織との接触が症状に関係する可能性があります。

画像では、内側ひだが膝関節内のどの位置にあるのかを確認できます。
出典:Lee PYF, et al. Synovial Plica Syndrome of the Knee: A Commonly Overlooked Cause of Anterior Knee Pain. Surg J (N Y). 2017;3(1):e9-e16.
4.タナ障害の評価に超音波エコーを使う理由
膝の痛みを評価する際、問診や身体検査に加えて、必要に応じて画像検査を活用することがあります。
超音波エコーは、皮膚の上から身体内部の組織をリアルタイムに観察できる機器です。膝関節周辺の軟部組織を確認できるほか、条件によっては滑膜ひだの位置や動きを観察することができます。
Paczesnyらは2009年、膝の内側ひだを動的超音波で評価する方法について報告しました。
この方法の特徴は、静止した画像でひだの有無を確認するだけではなく、膝蓋骨を動かした際のひだの動きと、患者さんの症状との関連を調べる点にあります。
動的エコーでは何を確認する?
研究で用いられた方法では、膝を伸ばした状態で、膝蓋骨の内側から超音波プローブを当てます。
そのうえで、膝蓋骨を内側へ動かし、ひだが大腿骨の内側顆周辺をどのように移動するかを観察します。
評価では、次の3つの所見が重要とされました。
- 膝蓋骨を動かした際に、ひだが骨の隆起部を滑る様子が確認できる
- 膝蓋骨を内側へ動かした際に、ひだが膝蓋骨の下へ入り込む
- その操作によって、普段感じている痛みや不快感が再現される
この研究では、3つの基準すべてを満たした場合に陽性と判断しています。
ただし、これは研究で用いられた評価基準です。実際の診療では、症状やほかの検査所見も合わせて判断する必要があります。
また、プローブで強く圧迫すると、それ自体が痛みの原因になり、評価を誤る可能性があります。検査では適切な圧力で観察することが重要です。

矢印は内側ひだ、Eは関節液を示しています。
出典:Basha MAA, et al. Diagnostic accuracy of ultrasonography in the assessment of anterior knee pain. Insights Imaging. 2020;11:107.
エコー検査の結果はどこまで信頼できる?
Paczesnyらの2009年の研究では、動的超音波検査について、感度90%、特異度83%と報告されています。
感度とは、実際にタナ障害がある人を検査で陽性と判定できる割合です。特異度は、タナ障害がない人を陰性と判定できる割合を示します。
一見すると有用な検査に思えますが、結果の解釈には注意が必要です。
この研究では、痛みのない膝でも滑膜ひだが観察されました。また、ひだが膝蓋骨の下に入り込む様子がみられても、痛みが生じない例がありました。
つまり、ひだの存在や動きだけで、痛みの原因だと判断することはできません。
さらに、研究対象は長期間症状が続き、保存療法で改善しなかった患者さんを中心とした集団です。検査結果を、すべての年齢や症状の方にそのまま当てはめることはできません。
エコーは評価に役立つ手段の一つですが、半月板や軟骨など、別の原因を検討することも大切です。
5.症例紹介①:50代女性のバスケットボール選手
バスケットボールの試合後に膝の痛みが出現し、翌朝には歩行時にも痛みを感じるようになった50代女性のケースです。
明らかな衝突やひねりのきっかけはなく、膝を曲げたときの痛みが強く、日常生活にも支障が出ていました。
初回評価で確認したこと
- 膝を深く曲げると痛みが出る
- 膝を伸ばしきる動作では痛みがない
- マックマレーテストと膝蓋骨圧迫テストでは、明確な陽性所見がみられない
- 超音波エコーでは関節液が確認され、内側に多い傾向がみられた
- 内側半月板に明らかな腫脹や逸脱は認められなかった
これらの所見から、滑膜ひだを含む関節内の問題が候補となりました。
ただし、検査が陰性だったことだけで半月板や軟骨の問題を完全に除外することはできません。膝の後方に痛みがあったことも踏まえ、ほかの原因についても確認を進めました。
施術とその後の変化
元記事では、医師と連携して滑膜ひだの関与を疑い、経過を確認しながら施術を進めたとされています。
ラジオ波による温熱施術の直後には、膝を曲げられる範囲が広がり、曲げたときの痛みも軽減したとの記録があります。
ただし、これは施術直後の変化であり、長期的な改善や原因の確定を意味するものではありません。症状が続く場合には、追加の検査や医療機関での評価が必要になることがあります。
6.症例紹介②:走ると膝が痛む10代前半の男の子
次は、ランニング時に膝の痛みが出るようになり、約3週間症状が続いていた10代前半の男の子のケースです。
歩行では大きな問題がない一方、片脚スクワットや片脚ジャンプでは強い痛みが出ていました。
成長期の膝の痛みで注意したいこと
成長期の膝痛では、滑膜ひだだけでなく、離断性骨軟骨炎やオスグッド病など、年齢に関連する疾患も考慮する必要があります。
元記事では、医療機関でMRI検査を受け、離断性骨軟骨炎を示す所見は認められず、内側タナ障害の疑いとされたと記録されています。
一方、動的エコーでは、膝蓋骨を動かした際にひだが膝蓋骨の下へ入り込む所見は確認されず、研究で用いられた3つの陽性基準はそろいませんでした。
しかし、動的エコーが陰性であっても、それだけでタナ障害を否定できるわけではありません。
運動への復帰を考えるとき
元記事では、痛みが出るランニングやジャンプなどの負荷を一時的に調整し、症状を確認しながら運動負荷を段階的に戻す方針が記載されています。
成長期の患者さんでは、症状だけでなく、成長段階やスポーツ活動の内容も考慮する必要があります。
痛みが続く場合や腫れが強くなる場合には、運動を無理に続けず、医療機関での再評価を検討することが大切です。
7.2つの症例から考える、膝の痛みの評価
今回の2症例では、年齢も発症の経緯も痛みが出る動作も異なっていました。
50代女性のケースでは、試合後に発症し、膝を深く曲げた際に痛みが強くなっていました。一方、10代のケースでは、歩行は比較的問題がないものの、ジャンプや片脚スクワットで強い痛みが出ていました。
このように、同じ膝の内側の痛みでも、症状の現れ方は一人ひとり異なります。
滑膜ひだが関係している可能性を考える場合でも、ひだの存在だけで原因を決めるのではなく、発症の経緯、身体検査、画像所見、必要に応じた医療機関での検査を組み合わせることが重要です。
8.膝の痛みでお困りの方へ
膝の内側が痛む、曲げ伸ばしで引っかかる、運動後に腫れぼったくなる。こうした症状には、さまざまな原因が考えられます。
タナ障害はその一つですが、すべての膝痛に当てはまるわけではありません。
症状が長引く場合や、腫れが強い場合、膝が動かしにくい場合には、医療機関で原因を確認することをおすすめします。
当院では、症状や生活上のお困りごとを確認し、必要に応じて適切な対応をご案内します。